日記/2009-1-19
声をなくして
先日久しぶりに本棚の奥から取り出した「AV女優」を、ここ数日、ゆっくりと読み返していた。
単行本の最後、解説として、大月隆寛が「ライター永沢光雄」について書いている文章は、以下の一文から始まる。
声のいい男である。
なぜこんなに素晴らしいインタビューができるのか、インタビュアーの適性のひとつとしての声の良さを、大月隆寛はまず挙げたのだろう。しかし、この文章が書かれた6年後には、下咽頭ガンの手術のために永沢光雄が声を失ったことを知っているこちらとしては、何とも言えない気分になってしまう。
大月隆寛の解説はその後、永沢光雄と呑みながら話した四方山話を次々と紹介していくのだが、そこに黒木香の名前が出てくる。ワキ毛のAV女優として一世を風靡した彼女が失踪して数年後、写真誌に近況がスクープされたあと、彼女は女性週刊誌のインタビューを受ける。インタビュアーは女性ライター。大月隆寛いわく「テキスト自体は確かに力の入った長いものだった」が、その記事が出た直後、彼女は泊まっていたホテルの窓から飛び降り、瀕死の重傷を負う。
「あれ読んで、なんか、いじめ以外の何ものでもないなあ、 なんでこの状態の彼女にこれだけしゃべらせなきゃならないのかな、 なんで女の人ってやさしくないんだろ、って思った。 三時間でも四時間でもお話ししたんだから、その人がこれから 元気になるようなものを書かなきゃしょうがないだろ、と。 とにかくあそこまでしゃべっちゃう人なんだから、そういう状態なんだから、 こっち側で書いちゃいけないところを考えて守ってあげないといけないのに。 あれを書いた人と会ったことはないけど、きっと話を聞きながら頭の片隅で、 『あ、これもらいッ』とか点滅してそうな、なんかそんな感じがした」
そう語る永沢光雄だが、それから数年後、今度は自分がインタビューしたAV女優の自殺という事態に直面する。
永沢光雄がそのAV女優遠野みずほにインタビューしたのは1998年、彼女が自殺したのは2003年、黒木香の場合と違い、インタビューが自殺の引き金になったとは考えにくい。
それでも彼は、腰を抜かすほどのショックを受ける。
なんでだよ? なんで、そのあと一秒、死ぬのを待てなかったんだよ。 一秒、たった一秒がまんすれば、おまえたちは死ぬことはなかったのに。
彼女の友人(彼女の母親くらいの年齢の、露悪的なレズビアン)から話を聞いていくうちに、永沢光雄は、遠野みずほが彼のインタビューで嘘ばかりついていたことを知る。
インタビューでは援助交際をバカにしていたが、実際には当時吉原の高級ソープランドに勤め、しかし過食症からくる鬱状態できちんと勤務できなかったため、仕方なくテレクラで売春していたこと。それどころか、売春相手に勧められて覚醒剤にまで手を出していたこと。
「腎不全なんですって。だから、自分はもうすぐ死ぬんだから、今日が楽しければいいと思ってる」、そんなことも語っていたが、実は腎臓が悪いなんてことは全くなかったこと。
「遠野みずほ」で検索すると、なんだか能天気な感じの、AV女優に対するそれとしては典型的なものだと思える、お気楽な調子のインタビュー記事が引っかかってくる。しかし、彼女がすでに自殺しているということを知っているこちらとしては、何とも言えない気分になってしまう。
永沢光雄の遠野みずほに対するインタビューは、「AV女優」の続編である「AV女優2 おんなのこ」で読むことができる。