「Every Breath You Take」の歌詞
ピーター・バラカンの「ロックの英詞を読む」の帯の惹句は、
ロックのスタンダード36曲を、ピーター・バラカンが新訳し、 英語表現の意味、隠されたエピソードなど詳細に解説。 歌詞の行間に秘められた、ミュージシャンたちの思いにせまる。
というもの。
そのコンセプトは、書籍とテレビ番組の違いはあれ、「ジュークボックス英会話〜歌詞から学ぶ感情表現〜」と同じだと言えるでしょう。
両者で取り上げられている楽曲のうち、一曲だけ共通のものがあり、それが、The Policeの「Every Breath You Take」。歌詞はこちら。
ピーター・バラカンの解説を私なりにまとめますと、この曲の特徴は以下の通り。
- 異常なほどのライミング(韻を踏むこと)。
- それによって失恋した相手に対する執着心を際だたせている。
- スティングの淡々とした歌い方も、ストーカー的怖さを引き立てている。
ところが、この曲を取り上げた「ジュークボックス英会話〜歌詞から学ぶ感情表現〜」の第2回 「切ない想い」における、マーティ・フリードマンの意見は違う。
いや、サブタイトルが「切ない想い」であるにも関わらず、番組中でなされる解説はそういうトーン一辺倒ではなく、
中田有紀「ストーカーっぽくないですか、これ」
という発言もあるほどで、この曲にはピーター・バラカンの言う「ストーカー的怖さ」もあるんじゃないか、ということにも触れられています。
しかし、マーティ・フリードマンの意見は違います。上記の発言を受けて、彼はこう言います。
マーティ「いやあ、読めばストーカーっぽくなるんですけどね」 「でも、そのつもりじゃないと思いますね」
また、その直前には、こういう会話も交わされます。
佐藤良明「『I keep crying,baby,baby please』と、もう最後は切願ですね、これ」 中田有紀「こう言われると、私はちょっと『重いな』って気もするんですけど」 佐藤良明「重いんですよ、男にとって恋愛の現実は!」 中田有紀「そうなんですか?マーティさんも?」 マーティ「まあね、実は意外とロマンチックなはずだと思いますね」 「そんなに、なんかあれ、惨めな姿を見せたくないと思いますけど」 「とにかく、お願い、つきあってくれ、って感じ。頼んでるって感じですね」
マーティ・フリードマンが言いたかったのは、佐藤良明の言う、切願するというような(ピーター・バラカンの言う執着心に通じるような)惨めな感じではなく、実はロマンチックなニュアンスがある歌詞なんだよ、ということでしょう。
ピーター・バラカンはイギリス人、マーティ・フリードマンはアメリカ人という違いはあれ、二人とも英語を母国語とする人たちなわけで、その二人の同じ歌詞(同じ楽曲)に対する解釈が正反対であるというのもなかなか面白い。
ここでは、作詞者のスティングがどういう意図でこの詞を書いたかということは重要ではありません。異常な執着心か、ロマンチックな気持ちか、いずれの解釈をも許容する、そのアンビバレントさこそが、「Every Breath You Take」が多くの人に愛される理由なのではないでしょうか。なんちゃって。