ブラッドベリとラジの「万華鏡」
最終更新時間:2011年05月04日 15時30分42秒
本棚の整理をしていて、サンリオ文庫から出ていたブラッドベリの短篇集「万華鏡」を見つけた。訳者は川本三郎。
ラジのアルバム「Espresso」に収録されている曲「万華鏡」は、この短篇集の書名ともなっている名作「万華鏡」をモチーフにしている。
事故で破裂した宇宙船から、宇宙空間に投げ出された乗組員たち。彼らはめいめい別の方向に飛び散っていく。
みんな孤独だった。彼らの声は、星の深淵にひびいていく神の言葉のこだまのように消えていった。隊長は月に落ちていく。ストーンは流星群と一緒だ。あそこをいくスティムソンとアプルゲイトは冥王星の方向だ。あそこのスミスとターナーとアンダーウッドの三人は、子供のころ、これはなんの形だろうと長いこと考えて遊んだ、あの万華鏡のかけらのように遠くに散らばっていく。 そして俺は? とホリスは思った。俺には何ができる? ぱっとしない、むなしい人生をつぐなうためにいま何ができるというのか? 俺が長年かかった集めてきて、それでいて自分のなかにそんなものがあるとは気がつきもしなかった、あのいやしい心。それを償うために、なにかひとつでもひとによいことをすることができたなら! だがここには自分しかいない。ひとりきりで、どうしてひとによいことができる? だめだ。明日の夜、俺は地球の大気圏にぶつかるだろう。 おれは燃えるだろう、と彼は思った。燃えつきて灰になり大陸にばらまかれるのだ。その時、おれは役に立つだろう。小さな灰でも灰には変わりない。大地の一部になるのだ。 彼は、弾丸のように、小石のように、鉄のおもりのように、勢いよく落ちていった。もはや彼は一個のものだった。悲しいとも嬉しいともなんとも思わない。ただ、すべてが終わったいま彼はひとつでもいいことをしたかった、自分ひとりにしかわからないいいことを。それだけが願いだった。 大気圏にぶつかったら、俺は流星のように燃えるだろう。 「ああ」と彼はいった。「だれか俺を見てくれるだろうか」ラジ_エスプレッソ - 万華鏡
サンリオ文庫版はとうに絶版だが、ハヤカワ文庫「刺青の男」で「万華鏡」を読むことができる。