密凶戦線サンガース
笠原倫の「密凶戦線サンガース」は、1989年から1990年にかけて、週刊少年チャンピオンで連載された、超能力伝奇マンガ、ということになろうか。今回久々に読み返してみたのだが、なかなかに面白かった。
単行本2巻の巻頭に示された「前巻までのあらすじ」には、以下のように記されている(引用者適宜抜粋、改行)。
密教者の聖崇は人類に災いをもたらす108つのMを倒すために来日。 菩提数珠でW浅野とつながれた崇は、宝高校の池田に入ったMと戦い、数珠パワーを使い倒した。
劇中での敵であるM、彗星のように宇宙から降り注いで人間に寄生し、いわば新人類への覚醒を促す宇宙的悪意であるMは、メシアのMと説明されているのだが、連載開始当時はまさに宮崎勤事件が世間を騒がしていたその真っ最中で、読者は皆、別のMを連想していた。実際、単行本1巻の著者近影欄には、漫画家の笠原倫自身が以下のような短文を寄せている(引用者適宜改行)。
丁度この「サンガース」の連載が始まった直後に、あのMくんが捕まった。 「サンガース」におけるMは人間の隠れた悪意を誘発するエイリアンでありメシアのMだったのだが…捜査が進むにつれ、MくんはまさにMとしか思えなくなってきた。 そして同時にこのマンガのテーマも<人間の2面性>にしぼられてきたような気がする。
その後のマンガの筋立てとしては、Mの親玉村崎無二がその超能力を用いて62教団を組織、教団の力を用いてM以外の人類の抹殺を図ろうとするという、オウム真理教的な展開となっていく。他にも、「師」には「グル」とルビが振られていたり、意識を他人の体に送り込む身体技法が「ポワ」と呼ばれていたりと、オウムもサンガースも密教に材をとっているのだから類似性が出てくるのは当たり前なのだが、マンガのそこここにオウムっぽい意匠が満載(オウムとの関係は薄いかもしれないが、Mに現れるアザはハーケンクロイツだし、62教団の巨大モニュメントもハーケンクロイツといういかがわしさ)。
一連の宮崎勤事件が88年から89年、サンガース連載が89年から90年、オウム事件が世間を騒がせたのが94年から95年。当時のオカルト・ブームを基調に、2つの大事件の合間に咲いた徒花のようなマンガがサンガースということになる。
斜に構えながらも友情の素晴らしさを歌い上げる熱いマンガなのだが、復刊は難しいのだろうか。
オカルトとは無関係だが、作中、自殺を図ることを「AKINAる」と表現していることも時代を感じさせる。