有栖川有栖と法光寺と三つ首塔
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長い廊下がある家 新装版 | |
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有栖川 有栖 | |
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有栖川有栖「長い廊下がある家」を読了。まあまあ。
同書収録の短篇「天空の眼」で、主人公(作者と同姓同名の推理作家)は、女子大生が撮った心霊写真の謎を解くため、写真が撮られた青森まで足を運ぶ。
去年の夏、彼女が独りでふらついたのは、このあたりだ。青森県の南東部にあたり、岩手県との境が近い。どうしてここまできたのかというと、三戸郡の法光寺にある日本最大の三重塔を観るためだと聞いて、意外の感に打たれた。そんな寺や塔は寡聞にして知らない。聞いてみると、昭和二十四年に建立された木造の塔で、非常にユニークな形状をしているとか。彼女の趣味は、<渋い旅> だったのだ。どんな塔なのか興味をそそられたが、先にすませたいことがある。
結局この後、小説の中ではこの「非常にユニークな形状をしている」塔について二度と触れられることはない。
私も主人公同様、この塔がいったいどんなものなのか、とても気になったので、早速検索してみた。
ひどくずんぐりむっくりの変ちくりんなプロポーションである。どうやらこれは、この塔が二階、三階にも登れるようになっているためらしい(こちらのページを参照のこと。また、Wikipediaの記事によると、三重塔は上層に登ることができないのが普通であるとのこと)。
この、なんだか模型っぽい違和感のある塔の写真を目にして直ちに思い出されたのは、「三つ首塔」のことである。
表紙に描かれている塔は、ぱっと見には四重に見えるが、よくよく見れば五重塔であることがわかる(女性の額の上にたなびく黒い雲の影の向こうに、うっすらと最下層の屋根が見える)。
だが、本文中には三つ首塔が三重塔であることが、以下のようにはっきりと記されている。
私はとうとう三つ首塔をはるかにのぞむ、たそがれ峠までたどりついた。 文字どおりそれはたそがれどきの、しかも曇った日のこととて、せまい盆地をへだてたむこうの丘の中腹に、薄鼠色の森や林を背景として、にょっきりとそそり立つ、三重の塔を望見したとき、あまりの感慨ふかさに、古いことをいうようだが、私には夢かまぼろしのようにしか思えなかった。
横溝正史いつもの名調子。「三つ首塔」は、深窓の令嬢にして「絶世の美人」(と本人が言っている)である主人公、宮本音禰が記した手記という体裁をとっているため、正しくは、音禰に正史がのりうつったかのような名調子とすべきか。
遠い昔にこの本を読んだ時から、「本文には三重塔とあるくせに、表紙は五重塔やんけ!」ということがずっと気になっていたのでここに記してみたが、私にとって「三つ首塔」と言えば、やはりドラマ「横溝正史シリーズ」の方のことである。
ドラマの中の三つ首塔は、三重ではなく二重である(Wikipediaによると「多宝塔」と呼ぶらしい)。下の画像はちょうど上記引用部にあたる、たそがれ峠から望む三つ首塔の姿である。
上の画像でもなんだか模型っぽく見えるが、実はこれは実物大のセットであり、最後には焼け落ちることになる。
なかなかお金がかかっているが、塔が三重から二重になったのは、それでも経費削減のためではないかと思われる。
だが、原作とドラマの塔の違いの検証など、本当はどうでもいいことなのである。
このドラマの見どころは、真野響子の美しさに尽きる。
真野は役柄どおりの清楚な美女。
しかし、劇中では横溝風のエログロな筋立てに翻弄され、レオタードに網タイツ姿を晒すことになる。他にも、小池朝雄と大関優子(佳那晃子)のSMショー、殿山泰司(ハゲ親父)とピーター(美少年)の濡れ場など、エログロな場面はたくさんあった。それらについてはなんとも思わなかったのに、米倉斉加年が真野響子を舐め回すように見つめるこのシーンは、見てはいけないものを見てしまったという気分で、子供心にドキドキしたものだ。









以上、有栖川有栖の短篇の一節からフェティシズムに至る、とりとめのない連想でした。
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